壁に囲まれた墨会館(午前11時ごろ)
東海道線普通電車で一宮へ
東海道線の8時過ぎの電車米原行きに乗って、乗り継ぎで愛知県の一宮市へ行った。
米原と大垣で乗り換え、10時17分着。
ダイヤが充実している在来線、東海道線を活用し、近畿・中京のふたつの都市圏を行き来できるのは、滋賀県に住んで便利だなと思う点の一つ。
行く場所が駅前とあれば、高速道路を使うのと遜色ない速さ。「青春18きっぷ」夏期間は終わったが、それでも片道約2000円はお得感十分。
ふだん近畿圏に住む者としては中京圏はなじみがなく、ましてや名古屋以外の都市はほとんど訪れたことがない。
「尾張一宮」に降り立ったのも今回が初めて。
新しくなっていた駅ビルは、京都の北大路バスターミナルのような自動扉のバス乗り場で、「21系統」に乗って西を目指した。
渋滞もなくまっすぐな道を快適に進む。
現れた端正な建築
「尾張中島」のバス停下車、東北方向に歩くこと約10分。工場と住宅に囲まれた一角に、コンクリートの壁で囲まれた建築が現れた。
丹下健三の設計「尾西生涯学習センター墨会館」。
このような建物があることを初めて知った。
東北角から見たところ
2階建ての建物で、コンクリートの寺院か城を思わせる。
石の舗道
自然石をコンクリで固めた舗道が建て物の周囲に。
赤っぽいチャートが混じっていることから、近くを流れる木曽川の石ではないだろうか。
岐阜県の「日本ライン」付近で見た赤チャートを思い出す。
多様な石の模様に見入った。
ホールと作品
炎上してしまった「あいちトリエンナーレ」にかわる「愛知芸術祭」が開催されており、愛知県内の4会場のなかで、いちばん滋賀県から近いのが一宮会場だった。今回、一宮だけを訪れるつもりでの探訪。
駅の観光案内所で1日券を買ったが、墨会館の展示は無料。
ホールの空間を利用して作品が展示されていた。
赤い床に、梁のようなコンクリート。
床のジグゾーパズルのような陶板などが配置されていて見事だった。
奥の壁に貼りついている白い屏風のような陶板は、もともとの建築ということで、建築と作品とが見分けのつかないほど一体化していた。
障子張りのような廊下
愛知県内では唯一の丹下健三建築という墨会館。
中庭的な空間
中庭には屋根がぽっかりと空いていたりしておしゃれだった。
こんな建物ならゆったりとした気分で生涯学習ができそうだ。
芸術祭というイベントのため、初めて一宮市を訪れ、墨会館に来た。
少なくとも芸術祭がなければ、墨会館に来ることはなかったと思う。
愛知芸術祭の作品を見ようと思って来たわけだが、半分以上の理由は知らない町を訪れたいという動機が大きいように思う。
市街地と神社
まちの中心にある神社
駅前の正面通りを進むと、大きな神社と社叢が見えてきた。
尾張の一宮、真清田神社は立派だった。
各国に一宮はあり、近江の場合は建部大社だが、門前はもっと小規模な町しかない。
伯耆の一宮、倭文神社に至ってはもっと小規模だ。
一宮市は名実ともに神社を中心にした町だった。
冷たい
手を洗う水に触れると冷たくて地下水のようだった。
神社の池
神社には池があってコイ泳ぐ。
木曽川に近くて水が豊富の土地柄のようだった。
この豊富な木曽川の水が、昭和に栄えた毛織物産業の原動力ともなったようだ。
会場で見られた顔料でできたピラミッド状の作品
まちなかに会場
芸術祭一宮会場の作品のほとんどは尾張一宮駅から徒歩15分までの範囲で回れるようになっており、長い映像作品を別とすれば、半日あれば観て回れる規模であった。
「あいちトリエンナーレ」の時は、名古屋の中心部にいくつかの会場があったが、「あいち芸術祭」では、県立の芸術センターだけが名古屋の会場。愛知県と名古屋市との間で連携がよくないのだろう、わからんけど。
一宮市の会場は、市役所内にも作品が展示されていて、まちを挙げて協力しているようすがよくわかった。
今年3月で閉鎖された市営スケート場や、閉校となった市立の看護師養成学校校舎で展示があった。
昭和の高度成長期の豊かさを感じさせるまちなみや市の施設。
平日で人が少なくて、くつろいで見られたのがよかった。
ぐっと質の高い体験ができた気分。
神社の裏手の公園
公園の小屋のバリーマッギー
神社の裏手の「大宮公園」に、カラフルに彩られた小屋。
これも展示作品でアメリカのバリー・マッギー作品という。
市役所横の大きな公衆トイレの壁一面にも作品はあったが、プリントだったし、正直あまり心を動かされなかった。
こっちの小屋は小規模だが、何だか屋根の形と絵の模様がマッチしていたり、手作り感がある。
右側の小屋にも絵が描かれている。
扉の内側
開け放たれた扉の内側に白い花瓶と丸い花の絵がある。
扉の淡いブルーの色はもともとの彩色なのか。その色を生かして描かれたよう。
この小屋は作業員の休憩室で中にはベンチがある。
花が飾られた小部屋のような趣に。
しばらく見入っていると草刈りをしていた公園整備のおじさんが戻って来た。
「すみません、作品を見学させてもらってます」
と断ると、おじさんは絵の下端の赤い「MB」の文字をびしっと指し、
「バリーマッギー」
と一言、教えてくれた。
決め台詞に、一瞬おじさんが、作業員に扮した役者に見えた。
ぐっと作品に親しみがわいた。
訪れて良かった。快適な秋のワンデイアート散歩となった。