柳谷の貝石山遠望(午前11時半ごろ)
山の中に貝の化石を見る
三重県津市の中心部から東に約10キロの山あいに、「貝石山」があるという。
「貝石山」とは、貝の化石が見られる露頭の古い呼び方のようであった。
江戸時代、貝の化石は「貝石」と呼ばれたそうで、近江の草津にいた「石の長者」こと木内石亭のコレクションにも貝石がある。
「貝石山」は、ひとつ山を越えた榊原温泉にもあるというが、今回は滋賀県から近いという理由で柳谷の貝石山を訪れた。
貝石山の説明
伊賀街道の長いトンネルを抜けて到着。
現場は狭いので、集落入り口の道がひろくなった場所に車を止めて少しだけ歩く。
さっそく説明の看板がある。
貝がみられる地層は約1700万年前。一志層群と呼ばれる堆積層で、1850万年前〜1400万年前ごろにかけて堆積したとある。
現場の海抜は約130メートル。
貝石山の現場
看板のすぐ左横が貝石山。
ひさし状になった岩の天井部分に貝の化石が露出している。
貝の化石
見ると貝が群集しているのがわかった。すごい密度だ。
何の貝なのかは所々で二枚貝や巻貝の形があるが、だいたいの形までしか判別できなかった。
そうすると急に、興味が薄れてくるのを感じてしまう。
粘りが足りないのではないか。
ツノガイ(中央)がある
ツノガイが存在感
その中で、ツノガイは象牙のような形をしているので判別しやすかった。
何ツノガイまでは分からないわけだが、このツノガイが、この場所の化石の中ではけっこうな個体数がみられた。
ツノガイは巻貝でも二枚貝でもなく、堀足綱(くっそくこう)という独自のグループに分類されている。
ツノガイの殻の構造は、角というよりは両側に穴があるパイプ状で、太いほうからは足が出て、反対側には肛門がある。足は伸び縮みして、砂や泥を掘り底にもぐってすごす。微小な珪藻とか泥底の有機物とかを食べるという。その生態は二枚貝に似ているが、頭糸という触手状の器官でエサをとらえるのが独特で、口の中には舌に付いたやすりのような歯「歯舌」があり、頭糸から口へと運ばれた餌ををこすり取って食べる。
歯舌は巻貝にもあるが二枚貝にはない。「二枚貝」「巻貝」という二大メジャー貝類の間で、どちらにも似ているようで似ていないというか。希少というほどでもないがそんなに繁栄もしていない。目立たないニッチな貝類といえるだろう。
だがこうやって貝石山の中で、ツノガイも他の貝と勢力を争うかのように存在している。マイナーだが、幾たびかの大絶滅も乗り越えて現在も存続しているところを見るとしぶとさもあるのだろう。
私もこれまであまりツノガイに注意を払ったことがなかったので興味を惹かれた。
美里ふるさと資料館
深海産貝の化石も
とまあ、しばし見学したあと、車で7分くらいの美里ふるさと資料館(入館無料)で、掘り出された化石が展示されているのを見に行く。
川底から掘り出された貝化石
展示されていたのは柳谷川の川底から掘り出された岩だという。
岩の表面
ホタテガイの仲間らしき貝
こちらの岩は、砂泥が固まってできた滑らかな表面に、白色の貝類化石が散らばっている。
先ほどの貝石山では、天井を見上げる姿勢で観察を続けていたが、だんだんと首が疲れた。こちらは至近距離で観察できてがぜん見やすい。現場近くにこうした見学施設があるのは大変ありがたい。
ところで、説明によるとこの化石を含んだ岩は2500万年前とあり、最初に見た貝石山より800万年古いことになる。
だが説明では「貝石山化石層と連続する」とあり、先に見た一志層群の時代と合わないのがじゃっかん気になる。
一帯から発見された化石は貝類のほか、サメやクジラ、アザラシといった脊椎動物の骨が混じり、けっこう幅広い。
展示されている岩などについての説明
見つかった化石の説明など
水深数十メートルより深いところにいるヒタチオビガイの仲間が見つかるということが気になった。ヒタチオビガイは、形や色が見栄えがするので貝類ファンに人気があると聞くが、深い海にいるせいか私は浜で拾ったことはない。
この化石が堆積した環境はどういう場所だったのか。
御殿場浜海岸(午後3時ごろ)
貝打ち寄せる現在の浜と比較
このあと、津市の御殿場浜へ向かった。
貝が打ち寄せられる波打ち際
波打ち際には多量の貝が打ち寄せられるが、よく見ると、何もない砂だけの部分と、貝がびっしりと集まる部分とがある。
先に見た貝の化石がびっしりと詰まった場所も、このようにしてつくられたのではと思っていた。
だからあのような「貝石山」は、その時代の海岸線近くだったと類推されうる。
だがしかし、それだと、貝石山で見つかる貝は浅場にいるやつ限定となるのではないか。
例えばサメやクジラとかの脊椎動物は、死体が浮遊して打ち寄せられることはあるだろう。
だが深海の貝類が波打ち際まで運ばれてくる現象はあまりイメージがわかない。
あるいは干潟でなくても、水深があっても海流など波以外の要因で貝や動物の骨が集まりやすい場所ができるのか? あるいは大地震による海底の崩れや、津波によって深海のものが打ち寄せられるなど、特殊な要因もあるのか。またまた問いかけで終わってしまうのだが、なぞは尽きない。
拾った貝
新鮮な貝殻が少ない
最後に、拾った主な貝を並べてみた。
ツノガイが落ちていないか探したが見つからなかった。
右下の細長い貝ふたつはツノガイではなく、二枚貝のマテガイだ。
アサリも少ない。
かろうじて拾ったアサリの殻が左側列の4個で、実際に浜に落ちている比率は少ない。潮干狩りも近年はきわめて低調と聞く。
全般に、浜に落ちている貝殻は死んで数年はたったような色褪せたものがほとんどで、色つやが鮮やかな貝殻や、若い貝殻の比率が少なかった。
ムラサキガイ(右から2列目の楕円形の大きな貝)は殻を覆う茶色い皮がしっかり付いており、死後間もない感じで、この貝は増えているんじゃないかと思われたが、アサリやハマグリがどうにかして増えてほしいものである。また潮干狩りをしてみたい。


