霊山
伊賀地方の霊山へ
霊山(765.5メートル)は、伊賀盆地の北東にある山だ。
地図を見ると、盆地と山との位置関係が、京都盆地と比叡山の配置にも似ている。
かつて滋賀県境を徒歩で越えて三重県に入ったとき、盆地の中で目立つ山容で、なだらかそうな形をみて、いつか登ってみたいと思っていた。(2022年11月26日「秋の低山行(その6)甲賀伊賀分水界めぐり2」参照)
(参考)伊賀地方の滋賀県境近くからみた霊山(2022年11月26日)
山頂からの眺めも良いという。
標高766メートルは、高低差300メートルがめどの筆者の低山めぐりを超えていると思ったが、登り口の霊山寺が標高400メートル近いというので、これはいけるのではないかと実行に移す。
霊山寺では桜まつりが盛大に開催
地元の桜まつりにいざなう提灯。梅咲く境内
駐車場は数十台の車で埋まり、警備員もおり大人気の山かと驚いていたら地元の桜まつりが開催されていた。
残念ながら桜はまだつぼみだった。
かわりに梅が見られ、境内を彩っている。
10時半にまつりが開幕すると、本堂前のステージで演奏が始まり、地元バンドが、ビートルズの「カム・トゥギャザー」をもじって「カム・ツゲザー」と歌った。ここは柘植(つげ)の村なのでツゲザーと。おどろおどろしい曲調と日本語のほのぼのとした歌詞とが深山の境内の雰囲気と融合してシュールだった。
模擬店でポテトとウインナー盛り合わせを購入。
ほんとうはウインナー盛り合わせの付属品のお茶が欲しくて「お茶だけもらえませんか」と尋ねたがそうもいかずウインナーも購入した。
だが結果的にこれが山での空腹を助けてくれることになった。桜まつりに感謝!
おじいさんをペースメーカーに
山の遊歩道
霊山寺から、山頂は東の方角にあり遊歩道をゆく。
遊歩道は整備されており、200メートル行くごとに「1合目」「2合目」と標識がある。
これは助けられる。
杖なしのおじいさんに、「靴ひもがほどけてますよ」と指摘される。
靴ひもを直している間、おじいさんに先に行ってもらう。おじいさんの歩く速度は遅くて追いつきそうになるが、その都度、立ち止まって息を整えたり写真を撮ったりして、おじいさんをペースメーカーとして活用させてもらった。
六地蔵に見守られる
前半は杉林の中を進んだ。
杉林では鳥の鳴き声が聞かれない。
7合目を過ぎたあたりから足が疲労アラームを発信しているようだ。
やはり現在の体力では300メートルが限界か。
だが8合目から上では、傾斜も緩くなりゆっくりと進んだ。
いつの間にか落葉樹の林となり、チチチ、ツツピーなど鳥のさえずりが聞かれるように。
ピイーと勢いよく、シカ鳴き声も。
すると4つ角があり、左折0.5キロで山頂という。
山頂手前の四つ角の標識
五輪塔や建物区画
山頂付近は平たくて、五輪塔の残骸が残る広い場所などがある。
お堂がいろいろと立っていたのであろう。
眺めの良い山頂
山頂に出る
ぽっかりと空が広くなり山頂だ。
かかった時間は1時間ほど。
想定よりだいぶ早かったので満足感。
眺めの良い山頂
山頂は20人ほどのハイカーでにぎわっており、グループでおしゃべりに花を咲かせていた。
評判どおりの眺めの良さだ。
西の方角
伊賀盆地が広がっている。
手前の平地は、右から左へと柘植、新堂、佐那具と経て上野に至る、関西本線などが走る「回廊地帯」か。
ひときわ高い山は、滋賀県境となっている笹ケ岳(738メートル)のようである。だとすると、あの山頂から右側に落ち込んだ鞍部となっているのが桜峠のようだ。
上野盆地の中心部方面
視線をやや左に移すと、上野盆地の中心部が見える。
真ん中奥に三角形をした山があり、それの右奥の平たい土地が、伊賀上野の市街地と思われるが、霞んでいるのが惜しい。
滋賀県方面(北西)の眺め
視線を右に向けると、山並みというほどでもない山林の向こうに、甲賀(滋賀県)の平地が広がっている。
なぜ滋賀県とわかるかというと、新名神の高架が平地を横切っているのが見えたからであった。
こうしてみても、伊賀(こちら)と甲賀(あちら)は行き来がしやすい地域と実感できる。
昼食(ポテトフライとウインナー盛り合わせ)
桜まつりで買った食べ物を昼ごはんに。
ウインナー盛り合わせは、フランクフルト1本とウインナー5本の組み合わせで、これに500ミリのお茶が付いて500円。
リュックの中で揺られたためケチャップやマスタードが散乱したが、ビニール袋で包んだためかばん内の散乱は免れた。
山頂の山岳仏教遺構
遺跡の看板
この霊山は伝教大師による創建ということで平安初期に開かれ、江戸時代の初め頃までは建物があったという。
これだけ眺めのよい場所であるので、やはり戦乱の時代は往来を見下ろす砦として価値が高いのではないだろうか。
静かな山中の田代湖へ
山頂から田代湖へ下りる経路
さてここから、時間もまだ正午過ぎであったことから、欲を出してさらに東側の斜面を下りて田代湖を目指すことにした。
田代湖への道も整備がされており安心して歩ける行路だった。
ちいさな渓谷
渓谷があり水が流れているところを渡る。
小さな谷が数か所。フレッシュな水が田代湖に注いでいるようだ。
木々の向こうに湖が
約30分後、杉木立の向こうに水面が見えてきた。
湖畔の紅梅
南北に細長い田代湖の標高は542メートルくらい。
ここでは梅が満開で、登り口の霊山寺よりもさらに季節が戻っているようだった。
田代湖
人けがなく、静かそのものの田代湖。
♪みーずうみーにーきみはみーをーなげーたー、と口ずさむ。
悲しくなってしまうので、
♪みーずうみーにーきみはいーしーなげーたー、と歌いなおす。
湖畔に一人。
背後には林間学校の設備が整備され、キャンプの舞台となっている。
そのため湖畔にはベンチがあって水辺へのアクセスもしやすい。
多くの少年少女でにぎわうのだろうか。しずかな湖畔のキャンプ場、ジェイソン。少年のころ見たアメリカの血まみれホラー映画を思い出してしまう。
コイがいる
湖畔の遊歩道を南に進む。
するとワンドのようなところに、コイがいるのが見えた。
けっこうたくさんいる。
ニシキゴイもいる
マゴイや紅白、金色などのニシキゴイが浅場でゆったりしている。
山中の景色とそぐわず意表を突かれた。
ワンドかと思ったらここは河口付近で、乗っ込みの時期なのかも。
荒涼とした山中の池を群泳
2003年以降のコイヘルペスの流行以降、ニシキゴイがいなくなって黒いコイばっかりの川や池が各地に増えた。マゴイよりもニシキゴイのほうが病気に弱いとみられるが、この田代湖では色とりどりのニシキゴイが泳いでいたのであった。
水温の低さとか、霊山のフレッシュな水が関係しているのかもしれない。
草が刈られた田代池の堤
多彩な水辺が展開
標高540メートルというけっこう高い場所にある田代池は、重要な灌漑用水とみられ堤周辺は整備が行き届いていた。
ここから、元の道には戻らず、山の南麓をぐるっと回って駐車場に戻ることにした。遠回りになるが行程はほぼ下り道となる。
水中にカワムツかアブラハヤらしき群れも
堰堤の上の流れの中に、カワムツかアブラハヤかの「ハエ」の群れも。
これらも放流されたのか、あるいは遡上してきたのか。
白藤の滝
その下流には、高低差15メートルの「白藤の滝」があり、これでは魚の遡上は不可能であるので、先ほどのハエは放流されたものであることが濃厚となってきた。
いや、地質的学に滝の形成以前に遡上した可能性もあるから、そうとも言えんのか。
滝近くの岩盤
滝近くでは岩が露出し、なかなかの迫力。
これは地面が隆起するとともに、水流が岩の割れ目に沿って削ってゆき形成された谷であるのだろう。
滝付近が、いちばんその活動が凝縮された地点なのだろう。大地の活動を端的に観察できる場所である。
霊山の南東山麓にある蛇喰池
霊山登山だけでは水辺の要素が少なく、登り始めたころは当ブログのテーマ「水辺」にそぐわないなと思っていたところ、欲を出して足を運んだ田代湖ではニシキゴイ、そして出会った滝と、多様な水辺の情景が展開し、印象深い行路となった。
午後3時半ごろ元の駐車場に到着すると満車だった車はいなくなっており、しんとした山中に取り残され一瞬、キツネにつままれたような心持ちになった。しかし帰り道、ふもとの村では神輿をかつぐ子どもの元気な声も響き、山里に活気を感じた。