2022年03月12日

三方五湖三館巡り(上)


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三方五湖の地図

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国道303号、高島市杉山の雪原(午前6時半ごろ)

暖かく穏やかな日和の休日。
水辺ファン待望の水辺巡りをしたい。
5時過ぎから車を駆り三方五湖を目指す。
福井県との県境付近は厚い雪が残り、これは川の流れとなって今年のコアユ捕りなども期待できるかもしれない。

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久々子湖

7時よりだいぶ前に、福井県若狭町の久々子湖南岸に着いた。
三方五湖の湖岸の大部分はコンクリ護岸で固められているが、久々子湖はこうした干潟がところどころに残っている。

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水や砂の動きがつくりだす文様

湖は波静かなので外洋の浜辺より繊細な汀線のカーブがみられる。
潮の満ち引きや、潮流などの動きと、風によってつくりだされる柔らかい縞模様と、波打ち際の線、山の形などがまざりあって混然とした空気感の風景が広がる。

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波打ち際

三方五湖周辺は、河口や湖、低山、湿地といったものが見られるので、「水辺ファン」としては楽しい場所。
こういう場所だから海や淡水の魚、鳥類などがいろいろといる。

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そんな水辺なら琵琶湖にもあるじゃないかということだが、琵琶湖にない要素としては海がある。
潟湖である久々子湖には海水が入り込んでいる。
浜にはシジミとともに、海産とおぼしき貝も落ちていた。
砂は白っぽい花崗岩の風化したものと、黒っぽいやや大きな石とでできている。
こうした粗っぽい砂の浜は、琵琶湖だともうちょっと急深になっており、遠浅の浜はもっと粒が細かくて泥っぽい。

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苧集落の周辺

菅湖周辺拡大img20220315091727274.png
菅湖周辺の地図

ここからまず湖の周辺を歩くことにし、宇波西(うわせ)川の河口付近から西に歩いて、浦見川の水道沿いを歩き、水月湖(上の地図で「∴三方五湖」と表示のある湖)に出る。

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浦見川の橋から水月湖を望む

久々子湖と水月湖をつなぐ浦見川は江戸時代に開削された水路。
久々子湖と水月湖はもともとつながっておらず、最上流の三方湖に流れ込んだ鰣(はす)川の水は、水月湖に流れ、次に菅湖(すがこ)を経由して川を通って久々子湖にそそいでいた。こうしたことは5年前に訪れた際に学んだ(2017年3月4日「三方五湖と梅、縄文ロマン(上〜下)」)。
菅湖から久々子湖へは、江戸時代の大地震までは気山川という川でつながっていた。縄文時代以来、三方湖から海に出るルートはこの浦見川ではなくて、菅湖から今は途切れてしまった川だったとみられる。
三方の地名の由来は「三潟」つまり、三つの潟というのだそうだ。三方五湖というのに、なぜ五潟ではないのか。
それは一つには、古代には久々子湖はまだ湖を形成しておらず口の開いた湾の状態だったことが考えられる。
でもそれだと四潟でもいいのではないか。
割とつながっている水月湖と菅湖を一つとして数えたかなどして、「三つの潟」として古代人はカウントしたのだろうか。ただ、どことどこを数えて三つととらえたかについては、調査不足で何とも言えない(すみません)。

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咲きはじめの梅と菅湖

そこからいったん低い山に挟まれた地峡を南下して菅湖沿いの切追(きりょう)集落に出る。
菅湖。三方五湖で最大の水月湖の東隣に引っ付いたような、どんづまりの「盲腸湖」(そんな言葉はない)。
水辺について釣り目的に魚を求めていた時期には、ほとんど情報もなくただの地味な湖にしか感じられなかった。
だが湖の風情という点では、静かなたずまいに趣を感じさせる。
梅は咲き始めではあったが、朝日を浴びた峰が対岸に見えて美しい景色だ。

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鳥の足跡

湖岸に近づいて、コンクリート護岸から見ると鳥の足跡がみられた。
波静かなせいか、ふわふわの泥が流れずに積もるようだった。

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(参考)かつて菅湖で見られた文様(2017年3月)

2017年に菅湖を訪れた際には水底に繊細で奇妙な砂泥の文様が見られたが(2017年3月4日「菅・三方湖と梅、縄文ロマン(中)」参照)、あの文様は部分的にしか見られなかった。文様は何の作用なのかはわからないが刻々と変化するらしいことを知った。

さて今回、ここから菅湖と気山地区を隔てる山を越えて寺谷地区に向かい、宇波西神社のほうに向かう。
高さ111メートルと110メートルのふたつのピーク(名前は不明)の中間付近の、70メートルくらいの峠を越える破線の道が地図に書かれている。これくらいの高さなら、冬場、運動不足でいた筆者の足でも無理なく行けるんじゃないか。
と思って歩き始めたが、途中で傾斜がきつくなり、意外にたいへんな山道だなと思っていたら、背にしてきたはずの菅湖の水のきらめきが、前方の木々の間から目に入って来た。道を外れた。危なかった。
引き返すと峠と思しき場所があった。そこを越すと、急に自動車の走行音や小浜線の踏切音が耳に飛び込んできた。
低い山一つで、音の環境もだいぶ違うものだなと思い知る。そちら側に国道や線路など若狭地方の交通網がルートが集まっている。

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来た道を振り返る。山の向こうが菅湖

お堂のところに下りて、やれやれ助かったと胸をなでおろす。
振り返ると、まあ低い山だったが、こんな山でも迷うことがあるのだなと心にとめる。

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立派な石垣の宇波西神社。神木の杉が立つ

お寺の北隣が宇波西神社で、立派な石垣だ。背後の山に貼りついたような形で、奥行きが少ない。


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神社の案内

案内に書かれた由来では、神社は相当に古くて、宇波瀬の宇は「鵜」だったようだ。
鵜は、人間にとって身近な鳥だったのだね。
氏子は近郷一帯の村に及んでおり、興味深いのは川筋も違う日向地区の漁業関係者の守り神でもあることだった。

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神社と山

神社は山を背にして、東を向いて立っている。
古い神社は、どこに行ってもその地域の要所に立っているように思われる。
ここは、かつての菅湖から久々子湖へ出るルート上にある。そんな海べりにある感じでもないのに、海の漁師の守り神となっている。古代にはこの神社付近が海べりだったのではなかろうか。

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紅梅が咲く

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宇波西川

神社の真ん前を流れる宇波西川。かつては鰣川の本流でもあって、丸木舟が悠々と行き来していたのかも。
琵琶湖の湖西地域にも似た花崗岩の白砂が川底にたまっている。

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段丘と鉄道

神社正面の宇波瀬川の川岸に立ってから東の方角をみると、田んぼの向こうに集落があり、手前をJR小浜線の列車が走っている。
田んぼよりも3メートルくらい高くて、集落と同じ高さ。山に向かってだんだんと土地がせりあがっている。
あそこらへんに、地面の隆起や沈降を引き起こす三方断層が走っているのか。

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跡松原の地名

車を停めた河口付近へ歩く途中に「気山跡松原」とある。「跡松原」とは、かつて松原だったという小字名だろうか。今では農地となっている。
久々子湖の南岸は隆起し、波打ち際はどんどん北に後退し、陸地が広がっているようであった。
これだけ海に近い場所に湖がありながら、10万年以上もの間、水月湖では湖底部が沈降しながらも、湖と海の境目にあたる部分は隆起し、海に呑まれて消滅することもなく、かといって土砂に埋められるでもなく、存在し続けているのはなかなか珍しい現象ではではなかろうか。

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漕艇

湖岸を東に行くと、漕艇の練習が繰り広げられていた。
漕艇が見られるとは想定していなかった。いや、想定はできた。
波静かな三方五湖はボートにも適していた。
そしてそのサイズ感は、三方湖の鳥浜貝塚で出土した縄文時代の丸木舟を連想させた。
先ほどの宇波西神社にも、大きな杉の木が神木としてまつられていたがその幹の太さもそのようなサイズだった。
とにかく三方五湖周辺では、時間の流れ、人の営みが途切れることなく連続しているように感じられる。
漕艇が盛んなのも単なる偶然ではなく、縄文時代からの流れをくんでいる部分もあろう。

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小浜線気山駅付近から西を見る

車を取り戻し、気山駅を見ると、立派に舗装された神社の参道が西に伸びており、直交する小浜線の下をくぐっている。
明治時代に建てられた石柱は段丘上にある。
このラインが、かつて海(久々子湖)と陸を分ける境界だったのだろう。


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〈おまけ〉見かけた素敵な鉢植え。こんな風にやってみたい

三方五湖のごく一部を歩いただけの小規模な水辺低山行。
ほんとうはもっと広範囲に歩いてみたかったが、ここからは、三方湖畔にある博物館の展示を見るのに時間を費やし、いろいろと三方五湖について思いを巡らしてみたのだった(続く)
























posted by 進 敏朗 at 11:23| Comment(0) | 水辺を見る(滋賀以東) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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