赤い花が咲くハナノキ
ハナノキの群落を見に岐阜県の東濃へ行く。
ハナノキはカエデの仲間で、春になると、葉が出るよりも先に赤い花が枝一面に出て、木全体が真っ赤に染まるのだそうだ。
ハナノキ、名前もいいし、花の咲きぶりも色も、いい感じだと思って、家を建てた時にハナノキの苗木を買って庭に植えた。
ところが高木なので、みるみるでかくなり枝を切るのが大変だった。花はなかなか咲かないし、植えた場所が悪かったのか数年して枯れてしまった。思えば、計画性もなく苗木を買ったことがよくなかった。
いつか自然の木を見に行こうと思い幾歳月。ついに意を決して朝から出かけた。
空に向かって咲く
ハナノキは愛知、岐阜、長野の限られた場所にしか生えていないという。
滋賀にも湖東の北花沢、南花沢に1本ずつ、神社にそれぞれ雌株と雄株の老木があり、国の天然記念物に指定されているが、それは岐阜や愛知からだいぶ離れているので、移植されたものではないかとみられているという。
この日行ったのは岐阜県中津川市の千旦林地区。ここには、数十本の状態の良い群落が湧水湿地沿いに見られるという。
数十本が生えていて、最大級の群落というから、いかに自然に生えているハナノキが少ないかという話だ。
坂本のハナノキ
中央自動車道中津川インターで降り、まず向かったのが坂本のハナノキ群落で、中央本線美乃坂本駅の南側に中学校があり、その東隣の場所だった。フェンスの外から観察。土地は東側が低くて、湧水が出ているかもしれない。木は見上げるほどの高さで、どれも大きくて立派だ。ウグイスも鳴いていて、いい感じに空が晴れ渡っていた。
遊歩道
フェンスの中には遊歩道があったが、木の高さは相当高くて、花が咲いているのを見るには首を上に向けなくてはいけなさそうだ。
遊歩道の周りは、湿地の雰囲気もかんじられる。
フェンスにからまる植物
4月はいろいろな花を見かける。はじけたポップコーンのような形をした、中が紫色の花があった。これは何だ。
花はあまり詳しくなく、あとで調べたらこれが、アケビの花のようだった。
アケビの花
正確には白いところは「萼(がく)」で、紫色の部分が花なのだという。
見たこともない形と色の組み合わせだったので、外来の植物かとも思ったがそうではなかった。
こうやって花を見るのも楽しいな。
田と林が入り混じる
そこから車で5分ほど行った岩屋堂地区。
田と小規模な林、ため池が入り混じって、滋賀県でいえば甲賀市の旧甲南、甲賀町あたりに似た感じがする。
(冒頭の写真)
新緑の季節なのにまるで紅葉のような赤い高木。
新緑の高木もあって緑、赤のコントラスト。
たしかにこれは、これまで見たことがない光景だ。
林と田園
天気がよくて風もない。ぽかぽかとして絶好の散歩日和。
花が日差しを浴びて喜んでいるかのよう。
ため池のスイレンとコイ
農作業中の地元の方から、見られる場所を教えていただいた。
今年の見頃は少し過ぎたかな、ということだった。
4月10日前後の今頃が見ごろかなと思って来たが、例年より咲いたのが早かったようだ。
看板はない。あぜ道の草刈りがしてあって、歩きやすくなっていた。
ため池とハナノキ
ため池沿いにハナノキがある。
ハナノキは、やはり湿地を好むようだった。
この群落には大木だけじゃなくて若木もある。
幹から新芽が出る
若木の幹は、表面がつるつるしているが、老木はひび割れていて、違う木なのかと思ったが花が同じだ。
一本一本、番号札がつけてあり、個体が識別できるようになっていた。
このあたりは数百万年前にあった大きな湖、東海湖の名残といい、ハナノキなど、この地域に特有の植物を、東海丘陵要素植物群というそうだ。
東海湖、いつだったか、上石津町に最後の東海湖の痕跡を見に行った(2017年3月10日「幻の東海湖」参照)。
最大時で琵琶湖の数倍の広さがあったという東海湖だが、東のほうからだんだん土地が隆起していって、最後は美濃地方の西端に追いやられて消滅した。それが100万年前のことだという。
そうしたらその次には、山を隔てて西側の伊賀地方にあった湖が北に移動していって、琵琶湖として成長し始めた。
東海湖の消滅と、琵琶湖の成長が、なぜか連続している。本州が東西から圧を受けて沈降、隆起した動きが、東から西へと伝わっていったような感じをイメージするが、実際はどうなのかはわからない。
シデコブシ
シデコブシの花もその一つなのだそうだ。ハナノキと同じ場所に生えていた。
花の季節はもう終わりかけだった。
ヒガンバナのような花
ヒガンバナのような形をした花もある。
きょうはいろんな花を見る日だ。
山
ため池ごしに山が見える。見晴らしがよさそうな山だ。
雪山の稜線が
はるか北のほうに雪山の稜線がのぞいている。
御嶽山? いまごろ雪があるなんて。
のどかな風景だが、このあたりに、リニアモーターカーを通す計画があると聞いた。
通ったらどのように景観が変わるのだろうか心配だ。
そう今回は、リニアで景観が変わってしまう前に見ておきたいとも思ったのだった。
ツツジの誘い
つぎに、すぐ近くにある恵那峡を目指す。
駐車場にとめると、ツツジの花の間に道があって、花が誘っているようだ。
この中に止まっているはずだが
さきほどのハナノキの場所でも見かけたが、アゲハチョウのようなチョウが2羽、舞っていた。
岐阜県だけに、ギフチョウかと思ってカメラを向けるが飛び去ってしまう。東濃地方では、春に地表に日が差す落城樹林のところにいるようだが、まさにそのような条件を備えた場所。
上の写真は、チョウが止まったあたりを撮影したもの。枯草の上にとまったのを確認し、数メートルの距離を置いて撮影、近づいたら再び飛んで逃げてしまった。
画像を拡大したら、チョウが確認できるんじゃないかと思ったが…ついに分からなかった。
あの羽の模様は、すごい迷彩色なんだなと納得。
恵那峡。対岸の崖の上に苗木城が見える
木曽川やその支流が、100メートル以上も土地を削り込んで峡谷をつくっている。
滋賀県で似た光景を探すとすれば、瀬田川の立木観音あたりだろうか。
対岸の崖の上に、苗木城が見える。
岩質は花崗岩なので、大津と信楽を結ぶ大戸川の渓谷の規模を10倍にしたような感じだ。
隆起していく大地を、木曽川が削っていた結果、このような雄大な渓谷ができたという感じだろうか。
岩屋の大祭
崖上の巨岩をくりぬいた祠で神事が行われていた。
朗々とした声で宮司さんがお祓いをしている。
戦国時代に吉田源斎という力自慢の男がすんでいたと伝えられる岩で、今では土地の人々を守る大明神として、年に1回の大祭が営まれていたのだった。神妙な様子に同行の友感激。
いつも大祭では飲食をするが、コロナのため神事を縮小したということでほどなく大祭はおわった。
大明神への供え物
岩屋の中をのぞかせてもらった。
宮司さんから、真正面からは撮らないでほしいとお願いされ、斜めからのアングルで撮る。
花崗岩をL字型にくり抜いたんじゃないかと思ったが、どうなのか。
調査では炭化した物が見つかっており火を炊いて食事が行われていたようだ。
恵那峡(パノラマ撮影)
この源斎岩の左側を通ると展望台があり、上の写真のようなパノラマが広がっている。
手前の木曽川は左方向が下流で、奥から流れ込んでいるのは支流の付知川だが、支流といっても滋賀県の大きな川くらいの流域面積、水量があるのだろう。
川底が見える
下流で川がせき止められているので、ダム湖のようになっているが、見ると水が濁っておらず、エメラルドグリーンの水には川底が見える。
これは、花崗岩地帯のため川底は泥じゃなくて、白砂がじゃんじゃん供給されるからもしれない。木曽川の本流だから流量が多くて、水がすぐに入れ替わるだろう。だがこれだけ森に囲まれているから、落ち葉とかも相当、落ちるはずなのに。ダム湖なのに濁らないのは不思議だ。
ハナノキと新緑の大規模な渓谷を見て、東濃地方の自然を堪能した。