地磁気逆転地層への入り口(午前11時50分ごろ)
チバニアンを訪れた。
千葉県を訪れるのは初めて。
よく、ニュース等で滋賀県民にとって「滋賀県」と聞き間違えしやすい千葉県。
どんな所なのだろう。
格安日帰りのぞみチケットで、朝6時半に京都発。早朝の便限定だ。
2時間強で品川着、そこからバスで、東京アクアラインを渡って千葉県に乗り込んだ。
東京湾の向こうに、千葉の陸地が見えてきた
バスは座れて快適。
東京湾を渡る様子は、琵琶湖大橋で湖をまたぐのにも似た雰囲気。
海上には海苔養殖の棚、その向こうには工業地帯の煙突が見える。
1時間ほどで袖ケ浦駅着。
そこから内房線で3駅、10時過ぎには、市原市の中心駅五井に着いた。
小湊鐡道のディーゼルカー
五井駅では、JR線の向こう側に小湊鐡道のディーゼルカーが停車。
肌色と朱色のツートンカラーは、むかし郷里の山陰本線でも見かけたような。
車両や、駅の空間全体が昭和の動態保存。跨線橋の弁当コーナーがあり、安くておいしそうだ。
ほんらいはこの、小湊鐡道で行こうと思っていたが、10月の台風被害で目的地駅へは運休が続いたままで、また日帰りで時間に制約もあったため、レンタカーを予約していた。
車庫に並ぶカラフル汽車たち
小湊鐡道は乗らずに撮影だけしてホームを出る。
軽自動車を借り、市役所前を通り、国道297号を南下。
五井には上総の国分寺があったそうな。古代から開けていた土地。
房総半島の大河川、養老川に沿って、ラーメン店が点在する道沿いを南下していくうち、田園と丘陵の風景となり小1時間。
チバニアンの臨時駐車場に着いた。
ビジターセンター(木曜日で休館)
チバニアンとは、地磁気の向きが逆転した77万年前から約12万年前までの地質年代をさす名称で、世界共通の名称として正式に決まろうとしている。その由来となっている地層がこの養老川上流にあるという。
筆者が訪れた4日前の12月15日、現場の駐車場の一角にビジターセンターがオープンし、台風の倒木等で立ち入ることができなかった現場の地層の公開も再開された。
だがこの日は木曜日で休館。
しかも悪いことに、前日までの天気予報は曇りだったにもかかわらず雨となっていた。
10年以上も前、京都で出会った大学出たての芸術家の卵が「空間の変容」をテーマにグループで制作活動を続けていた。つい最近、その彼が参加するグループが、千葉の美術館で「わからない」ことをテーマに企画展を開いていることを知った。
それで展覧会を見たい、ついでにチバニアンにも行くことにした。
なぜなら展覧会のテーマが、チバニアンを見た時のわけのわからなさから着想したのだという。
だからビジターセンターで解説を見ずに、わからないままの目で現場に行くほうが都合が良かった。
ビジターセンター休館、しかも雨とあって筆者以外に人がいない。
地磁気逆転層の説明看板
さて、駐車場から、畑の中を仮設の道が伸びている。
砲弾のようなヤーコン?が転がる。滋賀県ではあまりなじみがない野菜。
仮設道を進むと、養老川に向かう舗装道路に出る。
川は、駐車場よりもだいぶ低いところを流れていて、高低差は50メートルくらいはあるんじゃないか。
坂の下に養老川が見えてきた
歩くこと10分足らずで、養老川の河床に出た。
趣のある谷
両岸はU字型に掘り込まれ、川自体は平たく浅く、さらさらと水が流れる。岩肌にガスがかかり絵のような興趣たっぷり。
上の写真で、赤いコーンが立っているところまで進むと、岩壁が姿を現した。
穴が無数に打ち付けられて、まるで抽象的な磨崖仏。
チバニアンなのか?
駐車場で無料配布されていたチラシ掲載の写真と見比べる。
すると、岩壁の上近くを、やや右肩上がりに線が走っていることに気づく。
それが77万年前の御嶽山噴火の火山灰層。
偶然そのころ地磁気が弱まって逆転したので、火山灰の線が、地磁気逆転の時期を示す目印となっているのだ。
火山灰層が細いラインに
そのようなわけで、火山灰層の区切りによって、地磁気が逆転した年代がはっきり可視化できるというこの岩壁。
じっさいに地磁気の向きは何がどうなっているのか?
もう1回チラシを見ると、地磁気逆転層は火山灰よりも下で、上には中間層、その上方は現在と同じ地磁気の向きとある。
その説明を見て、いやいや、地磁気逆転層は上のほうじゃないの? と思ったが、下が地磁気逆転層という。
いやおかしいでしょう、だって77万年前以降の「チバニアン」時代の地層はとうぜん、火山灰層より上で、下はそれより古い「カラブリアン」層なのだから。
と思ったがこれも、筆者の思い違いにすぎなかった。後で調べて気づいた。
なぜなら、「チバニアン」は、77万年前の地磁気逆転を画期としてつけられた名称で、チバニアンの期間自体は、現在と同じ地磁気の向きだったから。
なるほどそういうことか。
ということはつまり、これがチバニアンかあ、と思って眺めるこの岩壁(千葉セクション)は、大部分がカラブリアン時代の地層を見ていることになるのだった。
地磁気の逆転、確かめられるかと思って方位磁石を持ってきたが、なぜかコーンで仕切られ立ち入り禁止となっていて、これでは空振りやん(カラブリアン)。
などとダジャレも出て苦笑。
方位磁石を近づけると火山灰層を機に逆転したりして、それが分かるという、肝心の部分が試せない。
これでは、現場近くには来たが肝心なところを見ずに帰るという、徒然草に出てくる仁和寺の法師状態。
何事にも先達はあらまほしきことなり。
チバニアン下流の手掘りトンネル
そこで岩盤よりも下流に行くと、上の写真のような手掘りトンネルがあって支流の水が流れ出ている。
先ほどの地磁気逆転層の説明看板をよく見ると、この支流一帯はちょうどチバニアンの岩盤の裏側にあたり地磁気逆転層が良好に見られるという。
しかし、このウオータースライダーのような岩肌をのぼるには少なくとも長靴が必要だろう。というわけで遡行は断念。
方位磁石も一応ためしてみる
方位磁石を岩に近づけたりしてみたが、針が動いたような、そうでないような。。。
楽しみにして来たのだが、、先達がほしい。
というか、チバニアン認定をめぐる研究者間の対立が早く解決され、誰でも岩盤で方位磁石をかざせるようになってほしいものだ。
柔らかい岩
ここで視線を下におろし河原の岩を観察。
岩は、たいへんもろくて、爪でひっかいても線が引けるくらい。
まあこれだけ、柔らかかったら、削られるのも早そうだから、この養老川のU字型の谷が深くなっているのも無理はない。
滋賀県でいえば、粘土がちな古琵琶湖層を流れる杣川沿いに似た感じ。
生物跡のような模様
石を見てみると、何やら生物が這った跡らしきものや貝殻が。
やはり海底の泥が固まってできた岩のようだ。
観音堀りの永昌寺トンネル
近くには明治時代の手掘りのトンネルもあった。
こういう形を観音堀りというそうだ。坑内の照明が後光のようにも。
房総半島は、柔らかな岩でできているみたいだ。
アップダウンの田園山林が展開された地なのだが、雨のため風景観察はせず。
運行再開が待たれる月崎駅
月崎駅前のショップで、小湊鐡道グッズを買う。
こんど来るときには乗ってみたい小湊鐡道。
食堂で甘目の親子丼を食べたのち、関西よりも10分くらい早い夕暮れの中、千葉市の美術館に行き展覧会を見た。
たしかに「はっきり」一瞬、認識のゆらぎが生じた「わからない」光景。
チバニアン体験を通じたしかに、展覧会も印象深く。
チバニアン(の地層)では、ただの岩盤がちがうものに見えた体験を味わった。
日常にはいろいろと、わからないことが潜んでいるんだなと、千葉に来て思った。
〈おまけ〉展覧会場外の柱に貼られた、来場者シールの「地層」