国道307号、鞍掛トンネル三重県側出口(午前9時ごろ)
鈴鹿山脈の最高峰、御池岳(1247メートル)に登る計画を立て、計3人の登山隊で
実行する。
御池岳の山頂部にはドリーネと呼ばれる窪地があって、池になっているという。
筆者は山を登るのが苦手だが、ドリーネが見たいという思いを抱いていた。
ついにそれを果たすべく犬上川の源流部を抜け、駐車場に降りた。
トンネルを出てすぐの駐車場は午前9時前で、あと3台分くらいのスペースがあった。
東海地方や関西、北陸方面のナンバー並ぶ。
晴れ渡った山並み(5月30日)
鞍掛峠は3年前から、土砂崩落で通行止めが続いていたが、この5月末に開通となった。
駐車場や登山口等の下見のため10日前に訪れた際は、上の写真のように晴れ渡ってまるで山が輝いているようだった。
しかし、決行日はあいにくの曇天、途中からは雨が降り始める悪天候。
近畿地方はまだ梅雨入りしていないという気象庁発表に一縷の望みをかけたがかなわなかった。
鞍掛峠付近からの三重県側の眺め
まあ天候はどうにもならない。雨への備えを絶対に怠らぬようにと、山行に熟練した友人Sから口酸っぱく言われていた。
さて、駐車場の海抜は625メートルで、山頂までの高低差は600メートルちょっと。
筆者のようなふだん運動不足気味の登山に慣れない人間にはきついが、いきなり標高600メートルを超えた地点から登り始められるのはボーナスポイントだった。
まず登山口から東方向に、トンネルができる以前の鞍掛峠(791メートル)まで、斜面をジグザグに登る。
けっこうな坂道で、もうここで萎えそうになる。
峠の交差点で、下山してくる祖父祖母孫の5人連れに出会い、谷沿いはヒルが出たことを知らされる。
鈴鹿の山々はヒルがよく出るということだったがそれが実証された。
白い花
平地にはないいろいろな植物がみられる。
この白い花は、なんだろう。小さな多数の花が長さ10センチの棒状に密集している形が面白い。
バランのようなバイケイソウ
幅広くて筋の入った葉っぱがバランのようだ、と言い合っていた幅広くて筋の入った葉っぱの草が多数。
これはバイケイソウというユリの仲間の植物で有毒のため、シカによる食害を免れ勢力を広げているという。
サトイモ科の花
これはサトイモ科の草でテンナンショウの仲間。山頂付近で見かけた。
などといろいろな植物にも見入る。
倉掛峠からは坂はゆるやかになって、尾根沿いを南方向に進んでいく。ガスにけむる。
「こっちは三重県側?」と右側を指して尋ねる。「違う。左が三重県側」と、何度も指摘される。
筆者はなぜか北方向に歩いていると勘違いしていた。方向感覚がうとく、一人で山行すれば遭難は確実だ。
コケ園
日差しを遮るものがない広い原に、コケがびっしりと生えている。
年がら年中、湿気に恵まれているのか。コケを観察するにはいい日だ。
もしかするとシカがもともとあった草を食べつくしてこうなったという可能性もあるか。
イオウゴケ
赤い花のようなものがついたコケもあった。イオウゴケという。
鈴北岳。テーブルランドに至った
何度か休憩して、鈴北岳(1182メートル)に着。
ここから御池岳の一帯は、平たくなだらかな土地が広がっている。
100万年か200万年前に鈴鹿山脈が隆起をはじめる以前、滋賀県と三重県側の境には山がなくつながっていた。
その時代の平地の名残りをこうしてみることができるのだった。
この南北2キロくらいもあるテーブルランドの各所に、ドリーネが見られるという。
ドリーネ、それは石灰岩を雨水が侵食してできる窪地。
それが地下まで侵食していくと地中に空洞を形成する場合もある。
御池岳では、ドリーネに水がたまった池がみられるという。
水辺ファンとしてはそれが見たくてここまで来た。
水のない窪地は多数
山頂部に案内板があるかなと思っていたところ、ステンレス製のふたのない箱のようなものが地面にボルトでつけられている。
その上部に案内板が据え付けられていたと見受けられたが、どこかに吹き飛ばされている。
不案内な中、山行に熟達した友人Sの読図により進む。
鈴北岳付近から先には、直径数メートルから20メートルくらいの窪地はいたるところにあったが、どれも水がなかった。
雨に溶かされくぼみができる石灰岩
ドリーネ出現
テーブルランドを歩き、ついに水のあるドリーネ出現!
直径が30メートルくらいの円形で、地面に穴が開いたように窪んでいる。
モリアオガエルの卵
水は茶色くて、透明度数十センチ。
カエルの鳴き声が盛んにして、池上の木には、泡状のモリアオガエルの卵がいくつもみられた。
こんな山頂にまでカエルが進出していることに驚く。
池の中には、茶色い色をしたカエルが頭を出していた。アカガエルだろうか。
樹上の蛇
そして別の木では、シマヘビがじっとしている。
カエルを狙っているのか。
ドリーネの自然満喫。
標高1200メートル近く、わずかな池をめぐって、生き物の生き様が繰り広げられていたのだった。
帰って地図を調べると、この場所は真ノ池ではないかと思われた。
「元池」の案内看板も見たが、結局場所が分からず。
御池岳山頂(午後12時40分ごろ)
山頂についたのは12時40分、登山開始から約2時間半後だった。
すっかりガスに覆われ、眺望は得られない。
山のウインナー
この日同行したNさんが、持ってきたガスボンベと調理具、ウインナーが登場、ごちそうになる。
気温が15度もない涼しさの中、温かい食べ物はおいしかった。
暑いかなと思って水を凍らせて持ってきたが、この日の天候では不要だった。
絶景ポイント「ボタンブチ」付近
高低差が約500メートルもある、切り立った絶壁になっている「ボタンブチ」。
筆者は高所が得意でないので、見えなくてよかったホッ、という気持ちも。でも絶景だっただろうという残念感も。
天気がよかったら、テーブルランドめぐりをし、隆起する以前の大地について思いを巡らしていたかったが、雨で古い合羽には水が浸透、ぼちょぼちょになり、申し訳ていどにボタンブチなど一巡すると、もう下山したい気分だった。
化石。ウミユリの断面?
友人Sの「化石ではないか」との指摘に下の岩を見ると、グレーの石灰岩に、白いものがついている。
これもあとで調べたらウミユリの細長い茎のような体を割った断面の形のようだった。ここらの岩は、1億6千万年前のサンゴ礁だったという。
下山したら4時20分。下りは雨に濡れて、滑りそうになったりと大変だった。
すっかり雨に打たれ6月というのに寒くなった。帰り道、車の暖房をマックスにしたがいっこうに温かさが感じられない。他の2人の同乗者は暑いといい、どうやら防水の不十分な合羽を着ていた筆者だけがすっかり体が冷やされ、低体温症のなりかけの状態のようだった。帰宅して風呂に入り蘇生した。
まあ大丈夫だろうと思って着替えを持っていかなかったことは反省点。
天候には恵まれなかったものの、山上の池、ドリーネを見るという希望は達せられた。
しかし、見れた池は一つだけで、ほかの池も何カ所か見て、山頂のドリームランドならぬドリーネランドを体感できなかったのは残念。
ここまでの山登りになると大変だが、見残したものもいろいろあるため、機会があればまた天気が良いときに登りたい。