JR太秦駅南側の下り坂
京都市右京区のJR太秦駅で下車、南に歩くと急な下り坂があって、桂川がかつて嵐山から京都盆地へと東流していた跡だという。
京福電鉄の踏切から北側を見る
2月というのにすっかり春の陽気。
地球温暖化を肌で感じさせる暖冬。梅の咲きも例年より早い。
梅の名所では京都の北野天満宮が有名だが、右京区の梅宮大社には550本といわれる梅が植わっていて、
「梅津」という一帯の地名の由来になっているという。
「梅津」にはもうひとつ説があり、桂川の土砂が一帯を埋めた津「埋め津」という話。
保津峡から嵐山へ出た桂川の流れは東流したあと南に向きを変え、ひらがなの「し」の字を描くようにカーブしている。
その「し」の字カーブ内側の一帯が梅津。
低地なのが特徴で、地図を見ると嵐山の渡月橋の北詰が海抜37メートルに対して、梅津では29メートルしかなく、となりの桂川の河原とほぼ変わらない。
川の土砂が埋まってできたという説明もさもありなん。
さらに梅津のなかに「罧原(ふしはら)町」という地名もあり。
「罧」は、水の中に木の枝などを沈めて魚を捕る柴漬け漁の柴のことという。
漁ができるワンドとか池があったとしてもおかしくない。
古墳と幼児
住宅地の中に踏み入ってほどなく、フェンスに囲まれた大きな古墳の石室が見えてきた。
これが京都府最大といわれる横穴式石室の蛇塚古墳だと、案内板にあった。
古墳を円形に取り囲む道路と住宅
航空写真
周囲の住宅が円形に取り囲んでいて、もとは前方後円墳だったことが航空写真から見て取れる。
有名な奈良の石舞台古墳よりも玄室幅が広いということで、首長クラスの墓だったとみられている。
この場所、冒頭の坂の南側で、低地の中にある。
古代に一帯を治めた渡来人の秦氏の治水技術をもって桂川を堤防の内側におさめ、
豊かな村に変えたというアピールなのだろうか。
土地との結びつきを強く印象づける古墳の場所選びだ。
西高瀬川
蛇塚古墳からものの2、3分で、西高瀬川の橋に出た。
西高瀬川は丹波地方の木材などを京のまちなかに運ぶために整備された運河だ。
千本三条まで開通したのが1863(文久3)年、伏見で鴨川につながったのは1870(明治3)年とのこと。
わずかな地面の凹凸をなぞっているのか、微妙なカーブがいいね。
などと感興にふける。
幅4メートルくらい(見た目)の水路に、澄水がゆるやかに流れる。
もともと桂川が東流した関係で、土地は東に向かってゆるやかに低くなっているから、
東に向かう水路を掘るのは理にかなっていたと言えよう。
西高瀬川にかかる住宅用の橋
すこし東側に歩くと、川がウオータースライダーのようになって深く掘り込まれ、その東側は住宅用の小橋が多数、懸けられていた。橋の下から川の水面は3メートルくらいあってけっこう高い。
そのため橋には転落防止のため高さ1メートルのフェンスがかけられている。
有栖川
西高瀬川の南を東南向きに流れる有栖川も、水遊びができそうなくらいきれいだ。
昭和から平成になり、川がきれいになったことはこの時代の美点と言えるのではないだろうか。
まちかど水族館
住宅の外側に、水槽が展示しているかのように置いてあり、
フナ、オイカワ、ナマズ、ドンコ、カマツカといった魚が泳ぐ。
近くの川で捕れたのだろうか。
野菜ショップ
周囲はまだ農地もわりと残っていて、家の軒先などに、野菜販売所を数か所見かけた。
のどかさを感じさせる。右京の平野。
梅宮大社の楼門
とまあ各所で足をとめながら、小一時間、歩いているうちに、梅宮大社の楼門に着いた。
朱塗りではないのでお寺の門みたいに見える。立派な門だ。
紅梅
全体としては五分咲きだったが、それでも早咲きの品種ではもう散り初めもあり。
白梅
紅、白、ピンク、大きいのや小さいのでは盆栽まで、各種の梅が楽しめた。
観光客の数もほどほどで、ゆったりと鑑賞できる。
「埋め」と「梅」。ごろ合わせのような、地名の二説。。
しかしここでは低地に梅が咲いているので、二つの説が融合しているのであった。
庭園の池
梅宮大社は庭園の池の水が豊富だ。
やはり桂川近くの低地という地の利が生かされている。
梅宮大社の所在地は梅津フケノ川町といことで、わき水があったんじゃないかと思わせる地名。
池の水量を見てそれも納得させられる。
梅を見ながら池の周囲を一周。
このメーンの池のほか勾玉(まがたま)池もあって、カキツバタの季節には、そうとう見応えがありそうだ。
ニシキゴイ泳ぐ
メーン池は真ん中の島を周回するつくりで、流れ込みもあって、
ニシキゴイもすいすい泳ぐ。
広くてフレッシュな水のいい池に気持ちのいい日差しが降り注ぐ。
松尾橋からみた桂川(下流方向)
神社を出て、四条通を西に行くとほどなく松尾橋があって桂川を渡る。
ワンドでは野ゴイが川底をさかんにせせっている。
古代の梅津でもこういう光景が見られたのではないか。
水辺の早い春を楽しんだ。
(参考文献)「地図でみる京都 知られざる町の姿」(海青社)