
「正倉院展」会場となりの池で、角を突き合わせるシカ
昼間、「正倉院展」を見に行った。
毎年、混んでいるというイメージがあって敬遠していたが、たまたま平日昼間に行くことができる機会を得て、意外に混んでなくて待たずに入れた。
展示品の目玉のひとつ、鳥のような形をした水差しは、薄い木の皮のようなものを輪状に積み上げたか巻くかして、その上に漆を塗った技法と説明されていたが、それにしては形に歪みが認められずすごかった。中国製という説明だった。
工具が発達していなかったのか繊細な装飾は道半ばといった感じだった。しかし、イグサや柳の枝などを用いた蔓工芸は精巧だった。シンプルな形の箱に、ちゅんちゅんと装飾模様があって、絹糸で結ばれている。あんな傷みやすそうなものが1300年も保存されているのは驚きだった。
写経をする職人が、休暇が月5日以上ほしい、服が臭くて洗っても落ちないので新しいのを支給してほしい、机に向かう仕事で胸や足が痛いので3日に1回酒を支給してほしい等、要望する文書があった。その文書だけが格調高さがなく生身の人間の赤裸々な欲求を伝えていた。時代が違っても、人の考えることは昔も今も変わらないんだなと親近感を持ち、デスクワーカーの待遇改善要望は同情をさそった。

猿沢池
観覧は思ったより早く終わり、まだ時間があったので、近鉄奈良駅に向かう道を南に折れて猿沢池を見た。

サギ
奈良の名勝である猿沢池で亀を見ようと思ったが、亀は見えず、サギが丸太の上にとまっていた。
五重塔を望む場所にはベンチが並んでいて、子供がコイにパンを投げ与えている。ハトも寄ってくる。

カイツブリ
水面にカイツブリがおり、何かをくわえている。小魚のようだった。

パンに群がる小魚や金魚
水中をよく見てみると、コイだけではなくて子供が投げたパンに、小魚が群がっていた。種類はわからないが細いからクチボソかもしれない。あと、赤い魚影もみえて金魚のようだった。それらは、水につかってふやけたパンに突撃し、ちゅんちゅんと突いていた。
すると、最初に見たサギが、池を横断して飛来してきた。

真剣なサギの表情
パンでにぎわう水面を見て、こちらのほうがエサの小魚にありつけると判断したのか。
人に慣れているようで、たくさんの人を前にしているのに逃げない。真剣な表情をして魚を待ち構えている。
と、サギが首をS字にすぼめたかと思うと、さっと水中に首を伸ばし、一瞬で何かを捕えた。あっという間でシャッターを押すこともできず。
つぎ、餌を捕るところを撮ってやろうと、カメラを構えサギが首をすぼめるのを待つ。
サギは泳げないので(たぶん)、じっと魚が近寄って来るのを待っているが、子供が投げたパンは岸近くを浮遊しており、サギが立っている丸太の端とは2メートルくらい離れている。サギはじっと待っている。まるで、水に入りたくても怖くて泳げない子供のよう。しかしサギは、いくらエサがほしくても泳ぐなどということはしない。冷静にじっと待つ。
でも浮遊パンはサギの近くには来ない。小魚の群れには、首を伸ばしても届きそうにない。それでもサギは表情を変えず、じっと待つ。待つことに徹する。そこにサギのプロフェッショナルを感じた。
いっそのことパンを拾って投げてやりたい、そうすれば小魚がやってきて、サギが魚を捕えるところが撮れるかもしれない。
と、真下の水面を見ると、石垣に流れ着いたパンに何かが付いている。

パンに群がるエビや小魚、金魚
エビだった。
猿沢池は、石垣に囲まれているので、そこがエビのすみかになっているようだった。
それが証拠に沖のほうに漂っているパンにはエビが付いていない。
いっぽう石垣に着いたパンには群がるエビがどんどん増えてきた。
いやーたくさんいるぞ。
なんだか小エビのかき揚げが食べたくなってきた。
これだけたくさんいれば、簡単に捕れそうなんだけど、この猿沢池は、興福寺の放生会のためにつくられたという池で、あんまりそういった魚捕りとかはしないんだろう。
エビに興味を奪われ動画など撮るうちにサギは捕食をあきらめ飛び去ってしまった。
ところで猿沢池といえば亀のイメージがあったが、どういうわけかこの日は、一回だけ亀を水面でちらっと見たがすぐに潜られてしまった。
亀にとっては、これだけエビがいれば餌の宝庫だのに。
以前、猿沢池で外来種のミシシッピアカミミガメが増えて困った、という記事をみたことがあったが、もしかするとその後、駆除が行われたのかもしれない。
猿沢池のシカや鳥、魚、エビら、人馴れしたそれらの生き物の中にあって亀だけは警戒心が強そうだった。