
庭木ごしにキリンのようなクレーンが現れた。
井戸掘りの機材一式を積んだトラックが到着し、午前10時ごろから庭で井戸の打ち込み作業が始まった。
早ければ2時間くらいで掘れるんだという。
まずは清めの塩が振られた。

1メートルの鉄管を立てる
続いて、長さ1メートルあまりの鉄管が、電動ハンマーで打ち込まれる。まずはこの管を打ち込んでから、ジャッキで抜いて、その穴に3メートルの管を打ち込んで抜き、それから5メートルの管に差し替えるという工法で、穴を深めていく。経費削減の関係から、筆者も作業の一部始終を手伝った。

水準器で、垂直に刺さっているか確認
打ち込みのはじめに、きっちり垂直になっていることが大切といい、水準器を使ってずれていないかを何度も確認する。はじめに角度がずれてしまうと、とりかえしがつかないことになってしまうんだという。
50センチ進んだところで、大きな石にぶつかったらしく、ハンマーが進まなくなって、掘削予定場所を当初の地点から30センチずらす。造成時の大きな石が未発掘だったようだ。

50キロのバーベル
取り出された50キロのバーベル、こいつを2枚、ハンマーの両側にぶら下げて、インパクトに時に100キロの重さを加える。ともに60代とみられる井戸技師氏らは、信じられないことに片手でバーベルをぶら下げている。ハンマーは、1分間に70〜100回のペースでダダダダダダダダダと鉄管の上から叩き、地面にめりこましていく。地面に手を当てると振動がはっきり伝わってくる。

脚立に乗っての打設作業
深さ2メートルくらいまで進んだ際に、石にあたったのか、急に鉄管の沈下が鈍る。打打打打打打打打打打打打打打打、ハンマーがうなるが、10回たたいて1センチも行かないような感じになり、上から重いハンマーを持っておさえている井戸技師氏の作業も、インターバルをあけてのペースに。
しかし、地下2メートル付近からの、苦しみにまみれた電動ハンマーのビートは、いよいよ管を5メートル管に切り替え、穴の深さ3メートルを過ぎたあたりから地層が変わったのか沈下がスムーズになり、昼すぎには長さ5.5メートルの管がほとんど打ち込まれた。

打ち込まれた鉄管
かつては川の本流がここにあって、それが硬い石の地盤となって残っているのではないだろうか。近郊で発掘された弥生時代の遺跡が地下2メートルくらいから出てくるところをみると、弥生時代には野洲川がここを流れていた可能性もある。
ハンマーを悩ませる石の地層も、もしそれがなかったら、自宅敷地は軟弱地盤になっていたかも。井戸掘りによって家が立つ地層がどうなっているのかを知ることができて貴重な機会だ。

鉄管内を洗浄
国土交通省が「水文水質データベース」なるものを公開しており、それによると、野洲川下流の石部、野洲市吉川や、草津市渋川など何地点かで、1978年以降の地下水位のデータを見ることができる。これはかつての琵琶湖総合開発や79年に完成成った野洲川下流部の改修などの関係で、地下水位低下の影響を調べる必要からこうしたデータが取られていたのかもしれないが、30年以上にわたる地下水の変動を知ることができて貴重だ。
自宅からもっとも近いのは2013年までが公開されている守山市吉身のデータで、それによると地下水位はだいたいマイナス4.4メートルくらい、だいだいマイナス3〜5メートルの間を変動しているが、高いときはマイナス2.6メートル、低い時はマイナス6メートル以下に落ちる特異な年もある。最低水位は1〜6月の冬から初夏が多く、最高水位は7〜9月の夏から秋にかけてが多いみたい。
筆者自宅の立地は、平地の中ながら、周囲の土地より数十センチ高い微高地になっているんだけど、まあその分を足しても5メートルも掘れば出るでしょうよと、気軽に構えていた。

細かな砂
ところが、30分の昼休みをはさみ筒内をのぞくと、3メートルくらい下に見えていたはずの地下水の水面が、だいぶ下がって見えなくなっている。

手押しポンプを付けて水を出す
試しに手押しポンプを設置、呼び水を入れてハンドルを押すこと数度、水が出てくるのだが、すぐに水が底に引き込まれてしまう。

鉄管の中(撮ってはみたが、フラッシュ弱く地下水面映らず)
1秒で5、6センチくらいの速さでスーッと、吸い込まれるように筒内の水が減る。これは帯水層に達したサインで「水が引っ張られる」という。もし地下水がなかったら、こんなに入れた水が減ることはないのだという。だけど水面は見えない。地下水脈に達したのか達していないのか、判断が難しいようで思案する井戸技師氏。
「もう1メートル管をつなぎましょう」
いちど付けた手押しポンプを外し、鉄管と鉄管をつなぐ作業に移る。
実はこの、管をつなぐ作業がなかなかの力仕事で、鉄管をつなぐねじ穴を完全に締めるには、大人3人がかりでも難しかった。しかし、この締めができないと、この継ぎ目で折れてしまうことがあるといい、折れたら一巻の終わりだ。長い柄がついたレンチを2本鉄管に噛ませて、あちらとこちらで反対側に力をかけて締め込んでいく。綱引きを連続でやっているような感じで、気を抜くとラガーマンのような技師氏の引っ張りに体ごと持っていかれたりして、ハアハアと息を切らす。もういいんじゃないかというところまで締めても「まだ3山ある」と、さらなる締め込みが続いた。
この決断をするまでに、ちょっと重々しい空気が流れた理由がわかった。

出てきた砂
井戸掘りは機械を使ってスマートな作業なのか思っていたがとんでもない力仕事だった。このような砂礫層では、とても、手掘りキットでは太刀打ちできないことも実感。
結局、5.5メートルの管に1.5メートルをつなぎ、鉄管の揚程は7メートルに。地下6.7メートルくらいまで刺しこんだ。手押しポンプで水を吸い上げるのは深さ7メートルくらいまでが限度とされている。手押しポンプを本設置して、片づけが終わったときは日も傾き午後4時前だった。

設置された手押しポンプ
手押しポンプを再び付けて、呼び水をして出てくる地下水は砂を含んだ濁り水で、出もあんまりよくない。これは、井戸管先端部の穴に砂が目詰まりしている状態であるという。この状態が、ポンプで水を出し続けることによって砂が地上へと排出され、粒の大きな小石が井戸先端部の地中に残り、隙間ができることで澄んだ水が軽く出てくるようになるという。その状態になるまで2、3週間は出し続ける必要があるんだという。