2015年02月11日

イケチョウガイ

イケチョウガイ全景.jpg
殻が磨かれたイケチョウガイ

淡水真珠の母貝、イケチョウガイをA氏からいただいた。殻長は14センチ。
3年前から、同市では琵琶湖の内湖、平湖・柳平湖で、かつて盛んだった淡水真珠養殖を復活させようと実験が続けられている。経過は順調で、真珠の取り出しも始まっているという。

草津は、淡水真珠養殖発祥の地とされる。志摩でのアコヤガイによる海産真珠養殖に遅れること約40年、試行錯誤の末、1928年に、吉田虎之助が、琵琶湖の固有種イケチョウガイを母貝としてようやく成功した。戦争による中断のあと、淡水真珠養殖は拡大、昭和40〜50年代に最盛期を迎え、年間6トンもの真珠を出荷、数十億円もの売り上げを誇る一大産業となったとされる。
ところが、内湖の水質悪化でイケチョウガイが死ぬなどの被害が出るようになった。平湖・柳平湖では、最盛期には地元の50数軒が湖面狭しとびっしり柵を立てて養殖にいそしんでいたが、現在は1軒が操業するのみとなっていた。

殻の内側.jpg
殻の内側

淡水真珠養殖では、球形の核を埋め込む海のアコヤガイのやり方とは違って、長さ数ミリに刻んだ貝の外套膜(肉の一部でひらひらした部分)を埋め込んでつくる。そのため、できる真珠は不定形をしている。色もいろいろで、内側の黄色味がついている部分に核を埋め込むと、ゴールドの真珠ができるそうだ。

真珠光沢.jpg
表面の真珠光沢

ところでこのイケチョウガイは、表面がグラインダーで磨かれているので、このように光沢を放っている。
コンパクトデジカメなので、なかなか質感を伝えるのが難しい。ほんらいは、淡水貝に共通する黒っぽい泥色の殻皮で覆われている。
こうやって裸になったのをみると年輪のような同心円状の縞模様があるのに気づく。数えてみると7本ある。貝が生まれてから真珠養殖に耐えられるサイズに育てるのに3年、真珠の核を埋め込んで取り出すのに3年かかるというから通常、貝が生まれて真珠出荷まで6年はかかる。この縞模様はやはり、冬と夏で成長速度が違うことでできる年輪なのだろう。真珠が取り出されたときは7歳だったことになる。
養殖者はイケチョウガイを「苦労貝」とも呼ぶ。体を傷つけられて核を埋め込まれ(その際に死んでしまうこともあるという)その挙句、最終的には真珠だけが取り出され身は捨てられるところからの呼び名だという。
いまこの復活した真珠を「月の涙」と名付けて売り出そうとしている。「涙」はこうした貝の悲話にもしっくり来ると思う。

真珠が注目されるイケチョウガイだが、こうして殻を磨くと内側だけでなく外側にも同様な光沢が出るので、これを工芸品として売り出せないかとA氏は研究を重ねている。有効利用することで、より貝の供養にもなるかもしれない。

ちょうつがい.jpg
イケチョウガイ(池蝶貝)のちょうつがい(蝶番)

いっとき水質が悪化した琵琶湖の内湖も、いまでは回復し、イケチョウガイの生育は順調なのだそうだ。固有種を母貝として生産される淡水真珠には、琵琶湖の水質復活への思いも込められていたのだった。


posted by 進 敏朗 at 12:14| Comment(0) | TrackBack(0) | 貝拾い記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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