2012年08月17日

湧水アート

滋賀県立近代美術館で開催中の「自然学」を見に行く。
これは成安造形大学(大津市)がロンドン大ゴールドスミス校と提携したことを記念する展覧会だといい、主に成安造形大の教員や出身者であるアート作家が作品を展示していた。
「自然学」というテーマで、芸術における自然観というものがテーマになっていたが、水辺をテーマやモチーフにしたものが最も目立った。

別に「水辺」をテーマにしているのではなく、結果的に水に関する作品が多くなったのであるが、水辺ファンにとってはたまらない内容であった。滋賀県にある大学が「水」をテーマにしたアート作品を展示するのは意味があることだと思う。
展示スペースを広々ととった空間は作品数はそれほど多くないが、素晴らしい作品が並んでいた。特に印象に残ったのは、4日間だけギャラリーで展示されていた木藤純子氏のインスタレーションだった。

そうしたベクトルとは別に、滋賀県内の湧水を集めたアート作品があったのが気になった。
県内の100カ所以上をめぐり、それぞれの地点を表した地図と作者が現場で水を汲んでいる写真、小瓶に入った現物(水)とで、滋賀の湧水を表現している。アート作品というよりはドキュメンタリーのようである。
各地点の地図とは別に、一枚の滋賀県大地図で100以上ある湧水地点を図示している。よくも回ったものだ。筆者の知らない湧水がたくさんあった。湧水の場所は、神社や集落の中に多く、飲める水が出るところは昔から人が住んでいたり、大切にされていたことがわかる。全図解が欲しいくらいだ。県内の湧水が一覧できる楽しみが堪能できる。

大地図を見ていると、滋賀県は真ん中に琵琶湖があるので、湧き水が川を下っていった先は、信楽など一部をのぞき琵琶湖に注ぐという点が、他の県ではみられないまとまりをつくっていることがわかる。これと同じ事を鳥取県で行ったとしても、何十本かある川はそれぞれ北上して日本海に注ぐだけなので、こうしたまとまり感は出てこない。
おそらく作者氏は、ここに展示されているよりもさらに多くの湧水を巡ったのではないか。そんなことも感じられた。滋賀県大地図の中の湧水ポイントを見ていると、湧水の密度に濃淡があり、石灰岩地帯である伊吹山や霊仙のあたりと、水郷地帯である近江八幡周辺、あと比叡山の周辺、安曇川デルタあたりが、やはり多い。
逆にまばらだったのは筆者も住む湖南の野洲川水系である。ほんとうにポツポツとしかない。こんなに少ないことはないだろうと思うが、魅力ある湧水がほとんどないということだろう。しかも、同川下流部のいくつかの「湧水」は、周囲の状況から見て自噴水ではなくポンプでくみ上げられているのではないかと思われた。ほんとうに湧水だったら素晴らしいことだが。

ポンプ湧水であるならば、たとえばコアユ養殖場や、工場が水源になっている川なども湧水と言えるだろう。さらに近年は、枯れてしまった集落内の湧水を復活させるといったことが、県内各地で行われている。
そうでない自然の湧水でも、犬上川や愛知川などの流れでも、いちど断流した水が下流で湧いて出るポイントもある。琵琶湖の湖底からも湧水が噴出する場所もあるだろうし、何より川の水源はほぼ湧水だろう。そんなことも思うと湧水はやはりもっとたくさんある。琵琶湖の水位が今よりも高く、平地の湧き水が涸渇する以前の戦後まもなくのころまでは、それこそ湧水だらけだっただろう。
ともあれ、これだけ県内の湧水について関心を呼び起こす作品を見たのは初めてだ。


〈「自然学−SHIZENGAKU 〜来るべき美学のために〜」 9月23日まで 滋賀県立近代美術館〉


posted by 進 敏朗 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 水辺アート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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